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【失恋のロマンチスト:エピローグ】勿忘草の花言葉に別れを。

2026/04/11

完結詐欺するつもりはなかったんですが、エピローグです。

勿忘草の主な花言葉:
「真実の愛」「真実の友情」「私を忘れないで」

一話でクローンをさくっと消し、二話で不穏だったイツヒコがメインの回です。

シムの紹介

シムの命名にも意味を込めがちなのですが、イツヒコは逸脱したシムという役割から「逸彦」と命名していました。
因みにレンノスケは恋の音読み+同じ音読みの花で蓮之助。
大福丸は説明文そのまま。洋猫に和名。日本のペットあるあるではないでしょうか。

終焉の日を望む者

(今もまだゴーストがベイフル・ボグのほとりに住んでいる。そう聞いたが……彼だろうか?この辺りは当然のようにゴーストが住んでいるから人違いでないと良いんだが)

(なぜこんなことになってしまったんだろう……こんな筈ではなかったのに……)

イツヒコは久々に訪れたレンノスケの自宅前で陰鬱な溜息を吐き、そして過去に思いを馳せました。
なぜ、いつから。恋の破綻が定まってしまったのだろうかと。

遡る記憶と思考

イツヒコはクローン体をシムと同等の存在だとは考えていません。
ただの研究資材。質量が多く自己主張の強いモルモット。または等身大の喋る人形程度の認識でした。

ボタン一つでオリジナルから複製され、言葉にも所作にも生きた時間の厚みを感じられない歪な存在。
彼らクローンが自分たちシムと同じ尊ぶべき存在だと、イツヒコには到底思えなかったのです。

イツヒコの思想を察してか、クローン体たちは従順な恋人を演じていました。
ですが残念ながら、その従順さが逆に「クローンという代用品を愛している」という現実をイツヒコに直視させていたのです。

(レンノスケと同じ外見、同じ声、同じ体温、同じ味……なのに日増しに違いが目に付く。その違いが私の愚かさを責め立てだして苦しい……この個体も駄目だ。私は、“なに”なら愛せるんだ?)

(腕の中の小さな彼を、かつての恋人と同じシムだと思えなかった訳じゃない。思いたくないから封じた。私は、ただ認めたくなかったんだ)

(彼をレンノスケと認めたら……二度と彼の隣に立てない私の孤独を認めることになる。彼の親友は、いつだって私だけの場所だったのに!)

転生した想い人を育て直す過程で、イツヒコは自分のどす黒い感情に気付かされました。
恋や愛、友情などと美しい言葉では到底取り繕えないだろう執着心です。

もはや依存と称した方が正しい程に、イツヒコはレンノスケを執着している自分を知りました。

(この感情の始まりはきっと母の没後だ……母が居なくなった時、私とイツヒコの中で母が永遠の存在に変わるのを感じた。今も生きている父よりも母の想い出が美しいのは、もう居ない存在だからだ)

ちなみにイツヒコの父はファーザー・ウィンターです。

イツヒコが乳児だった頃に一度だけ泊まりに来ましたが、一度も世話をしてくれず冷蔵庫の作り置き料理を勝手に食べるので強制的に帰しました。
レンノスケの転生後、「育児の手伝いしようか?」的な電話を寄越して下さったのですが、プレイヤーが舌打ちと共に取った選択は言うまでもないでしょう。

イツヒコを励ますレンノスケの声も涙で震えていました。
亡くなったのは自分の肉親ではないと言うのに、彼は共に悲しんでくれているのです。

彼に恋をした切っ掛けは思い出せません。気が付いたら当たり前のように好きになっていたから。

ですが、レンノスケが外見にそぐわぬ繊細さと優しさを見せる度、イツヒコは彼を愛おしく思っていました。

(私が死んだ時も彼は泣いてくれるだろうか。誰かに慰められるのだろうか。そして、立ち直ったら……私以外のシムを愛するのだろうか……)

あり得るかもしれない未来を夢想し、怯えるようになったのはこの頃からでした。
レンノスケの慰めの言葉すら、今のイツヒコにとっては不安を搔き立てる種でしかありません。

(そうだ。私が、死ななければ良い……不老の存在……吸血鬼に変えて貰えれば……)

幸運にもイツヒコには吸血鬼との伝手がありました。
レンノスケが共に吸血鬼に変わってくれませんでしたが、彼は彼なりに同じ時間を共有する提案を出してくれました。

転生です。

レンノスケが転生という手段で不老となったイツヒコの時間に付き合う約束を交わしたその時、二人は確かに永遠を生きていました。
この時、時間が止まってくれれば、どれだけ良かったことでしょう。

『もうあの頃に帰れないのなら。幸せな記憶が私を苦しめるなら……消してしまえば良い』

転生した幼いレンノスケを家に置いていく不安から、イツヒコは未来シム研究所を辞めていました。
しかし機材と材料さえ手に入れば薬剤は製造できます。

彼らの研究テーマであった存在の力を一時的に得られる薬が完成した後、イツヒコは重い足取りでレイブンウッドへと向かったのでした。

そして再び現在。ノックするべきドアは未だ遠い

(……何時間経った?ここのところ、いつもこうだ。気が付くと昔の事ばかり思い出し、涙が勝手に出てくる)

来たばかりの頃も空は赤く染まっていたように思いますが、モウニングヴェイルは昼夜の判断が難しい土地。
少なくとも夜ではないようです。

いつまでも立ち尽くしている訳にもいかないと、イツヒコは足を踏み出しました。

『久しぶりですね、レンノスケ……』

『やっと動いたか。家の前に棒立ちの不審者がいるぞと電話が来て、外を見たら立っているのは身内だった僕の気持ちも考えてくれよ……』

『それで今度はなんだ?また僕のクローンでも作る気か?』

『いえ……もう、貴方のクローン体に用はありません。他に頼みたいことがあります』

流石に意識をなくした状態でクローンを作っても、人の口に隠し立てはできません。
特にレンノスケは「友人」の多いシムです。

知らない内に自分のクローンが作られていることを人伝に聞き、ひっそり頭を抱えていました。

『この薬を、飲んでいただけますか?その方が話が早い……私が身をもって治験済みの薬です。貴方の体に異常は出ません』

『異常もなにも、僕はもう死んでいるからなぁ』

『まあ薬は飲むよ。でもイツヒコ、お前休んでいるのか?様子がおかしいぞ』

『……せめて少しは躊躇って下さいよ』

少しの逡巡もなく手渡した薬を飲むレンノスケに、イツヒコは不安を覚えました。
確かにゴーストであれば体に不調の出る毒なんて意味がありません。なにせもう死んでいるのですから。

『僕の中に知らない力が満ちてる……なぜ僕にこの薬を飲ませたのか、説明してくれるよな?』

エイリアンのブレインパワーを得て、強い集中力を得たレンノスケ。
未知の力だというのにその使い方も同時に分かるという、不思議な感覚を帯びていました。

なお、このムードレットが付くまで何度失敗したかプレイヤーは覚えていません。

『記憶抹消のブレインパワーで、私の貴方に関する記憶全てを消して欲しい……レンノスケというシムへの想いが呪いのように、私を過去に留めてしまっているのです』

『……君のレンノスケは僕じゃないんだろ。クローンに頼んだらどうだ?』

『クローンなどが貴方の代わりになる訳がないでしょう。貴方が最もレンノスケに近い存在だから頼んでいるのです……さあ、はやく記憶抹消の力を使いなさい。薬の効能が消えたら使えなくなりますよ』

代わりにしていたのはお前だろう。とレンノスケは胸中で毒吐きつつも、正直自分と瓜二つのシムを何体も作る彼の不健全さを心配していていました。

『分かったよ。これで、本当にさようならだな……』

(自分の手で記憶を消せない臆病者だと笑ってくれて良い)

(願わくば、また友人に……)

イツヒコの頭から、レンノスケに関する記憶が記号と化してはじけ飛んでいきました。
最後に残った淡い願いも、蒸気のように大気へと溶けだします。

そして、瞬きした次の瞬間。二人の意識は一度途切れました。

記憶のない僕ら

玄関先で倒れるなんてレンノスケには初めての経験でした。
自分に何が起きたのか、レンノスケは懸命に意識を失う前の自分の行動を遡っていますが、一部が薄らぼけて思い出せそうにありません。

記憶と言えば、見覚えのないシムも一緒に倒れていました。

レンノスケもコモレビ山の祭りで何度か袖を通したことはありますが、着物も下駄も日常使いするシムは今まで見たことがありません。
もしかすると見た目以上に高齢のシムなのではないか?そう予測立てていました。

(運命みたいに僕の好みそのものだ……!でも他人の家で倒れるなんてよほど体調が悪いんだろうな。弱っている隙に付け込むような真似はしたくない)

目を覚ました見知らぬシムに挨拶をした瞬間、その笑顔にレンノスケは一目惚れしてしまいました。
正直、今すぐベッドに連れ込みたいくらいです。

ですが、今日の所は「ただの親切なシム」で居ようと心掛けることにしました。

『この辺りは底なしの大きな池があるんだ。まだ生きていたいなら日が暮れる前に帰った方が良い。家はどこ?送って行くよ』

『え、ええ。そうして頂けると助かります。貴方もその……池が原因なのですか?』

自分の理性がしっかり機能している内に帰すついでに、家を教えて貰おうという下心ありきの提案でした。
ですが言外に死因を問われ、レンノスケは初めて失恋相手を忘れていることに気付き、足を止めます。

失恋の悲しみも、頬を濡らす涙の熱さすら覚えているのに。
自分を振った相手の記憶だけ、すっぽりと抜け落ちていることに気付いたのです。

『違うよ。僕は失恋が原因で死んだんだ。相手は覚えていないけど……きっと本気の恋をした証なんだと思う』

『失礼ですが、逆では?忘れても良いような存在だったから忘れたのではないですか?』

『人それぞれだろうからな……でも僕はきっと忘れた失恋相手にまた出逢ったら、確実にまた恋に落ちる自信がある。そのくらい、強い想いがハートに刻まれているんだ』

『……貴方を振った方、まだご存命なのでしょうか?』

『それ、僕も思ったよ……生きていない可能性があるから、覚えていないのかも知れないな……』

End(本当に!)

最後に

プレイヤーこと筆者の烏ガラスです。完結詐欺してしまったことにまずは謝罪を。
二話の「確実にバッドエンドが待っていそう」な不透明な終わり方で私は満足していたのですが、問題が一つありました。

オカルト遊び人世帯にレンノスケを加えるには、安心して大福丸を預けられる別世帯が必要なんですよ。

書いた私でも正直、二話の終わり方では安心して可愛い大福丸を預けられません。
急いで、イツヒコ側の深堀り解釈と、クローン作製以外の解決方法を取り入れたストーリー作成に取り掛かりました。

結果、嫉妬深い特質はこいつに付けるべきだろうってくらい、強い執着心の持ち主だった訳です。
また闇の深いシムを生んでしまったと慄きましたね。

Sims4の仕様上、記憶抹消を使うとお互いの記憶が消えます。
メモリーや関係は消えませんが、お互いが「初めまして」の挨拶から始める必要が生じるのです。

なので、レンノスケは転生した切っ掛けも忘れていますし、イツヒコに育てられたことも、クローン体を恋人として与えられたことも忘れたことになります。
Get To Workの科学者キャリアのドリンク薬でハズレを引き続け、何度も床に突っ伏したことも忘れていることでしょう。

当たりよりハズレを引く確率が多いのもあって、色々と面白い効果があることを知られていない気がする……その辺もリフレッシュアップデートして欲しいですね。

ドリンク薬の仕様はともかく、これで安心して大福丸を預けられます。
二人はもう普通の友達に戻れたのですから……。

さて、改めまして最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

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なにより最後まで暗い話を呼んで下さった方、
皆様方に盛大な感謝を!

糖分高めなハッピーエンドや真面目な話が続いたので、日常的なくだらないギャグを挟んで箸休めをしたいと思います……。

烏ガラス
Wavebox
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