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【囚われの従僕に祝福を:2】かつて魔法使いだった獣たちの慟哭

2026/01/25

  「エコ☆エコエイリアン」、「潔癖症の吸血鬼、転生する」のスピンオフです。

※ 当シリーズにはWerewolves GPのネタバレと、極大解釈が含まれます。

一応のワンクッション

このシリーズはWerewolves GP出典の魔法使いと吸血鬼の歴史に関する情報を元に、筆者が妄想を膨らませた結果、生まれた話です。
知識がある前提で話を書いているため、ゲーム内で原典を読むかネットで調べた後の閲覧を推奨します。→(maru様がまとめて下さった記事がございます

昔々、座学嫌いな魔法使いがいました

青年は原始流派の達人としてムーンウッドミルに呼ばれ、つい先程まで他の偉大な魔法使い達と共に丘の上で集団魔法の儀式に参加していました。

魔法の名前は「ムーン・インフュージョン」。

それは月の力を身に宿し、吸血鬼に対抗する新たな魔法──だった筈でした。
ですが、共に儀式に参加した他の魔法使い達が次々と獣の体に変わり出していくではありませんか。

丘の上に獣の呻き声と遠吠えが響き渡る異様な様子に恐怖を覚え、気が付くと青年の体はその場から逃げ出していました。

やたらと体が軽く、地面も近く感じましたが、恐怖に囚われた青年には関係ありません。
ただ、耳にこびりついた悍ましい獣の吐息から逃げるのに必死でした。

小屋に辿り着いた時、青年はようやく気付きました。

自分も獣に変わっていたということに。

逃げようとしていた獣の吐息は自分の口からこぼれていたのだと。

『ああ、ああ……どうすりゃ良いんだ。こんな爪じゃ父さんも母さんもズタズタにしちまう!抱きしめることだってできやしないっ!!……サンダー、サンダー!……っお前ならどうするんだ?俺は……俺は、これから、どうすりゃ良いんだよ……っ』

思わず賢い親友の名前を呼び助けを請いましたが、この場に居ない彼から答えが返ってくる筈もありません。

ウェアウルフに変わってしまった魔法使いの青年──ミストは力を制御する方法が見つかるまで、ムーンウッドミルの森に潜むことにしました。

誰も傷付けないように、誰からも傷付けられないように。

村一番の力持ちだった青年は、たった一晩で臆病な一匹狼に変わってしまったのです。

孤独な狼

幸か不幸かミストは座学こそ苦手としていましたが、体を動かすのは得意分野です。
食料に困る日は一日たりともありませんでした。

義理堅い親友がムーンウッドミルの異常を聞き、此処に来るかもしれない。
そんな淡い期待を抱き、数時間ほど小屋の前で待つ習慣を作っていた時期もありました。

そんな甘い話はない。分かっていても待たずには居られなかったのです。
期待せずにはいられなかったのです。

ミストはまだ魔法の国を襲った未曾有の災害を知らず、彼が待つ親友が帰路を探す旅路のさなかに居ることも知りません。

独りだけで過ごす時間は長いようで速く過ぎ去っていき、気が付けば張りのあった肌には皺が刻まれ、艶やかだったブラウンの髪には幾つか白い毛が目立つようになりました。

独りで生きようとする彼を心配して声をかけるウェアウルフも居ました。
しかし、今のミストは他のシムと傷の舐めあいなどしたくなかったのです。

『放っておいてくれ!!』

『なぜ俺を独りにしないっ!!俺はもう誰ともつるみたくないんだ!!』

老いに任せればいつか時間が彼を死なせてくれたでしょう。
ウェアウルフは吸血鬼と違い、能力を得なければ永遠を生きることはできません。

ですが、ミストは老いを遠ざける道を選びました。

自分なりの生きる道を見つけられないまま、時間に殺される理不尽を彼は許せなかったのです。

群れに歩み寄る

『その……前は喧嘩を売っちまってすまなかった。仲間に入れてくれないか?』

ミストが独りで長い長い時間を浪費している間、ムーンウッドミルにはウェアウルフのコロニーが生まれていました。

大木の前で長閑に肉を焼き、雑談する姿が故郷を思い出させたからでしょうか。
それとも孤独に疲れてきたのでしょうか。

ミストは温厚そうなムーンウッド集合体に身を寄せてみることにしました。

『もちろんさ。君は私より長く生きていたのだろう?前は考えなしに声をかけて悪かったね』

『いや、俺は生き方に悩んでいたら結果的に長生きしちまっただけの……ただの悪ガキだ。クリストファー、ウェアウルフとしての生き方を教えてくれないか?』

群れのアルファであるクリストファーはミストに「ウェアウルフと他のシムの橋渡しをしてくれ」と告げました。

なんでもウェアウルフという存在が生まれた後、吸血鬼はあえて自分たちの存在を大衆の前に晒し、「ウェアウルフよりも我々吸血鬼の方が洗練されている」というプロバカンダを行ったのだそうです。

クリストファーの説明を受け、ミストは眉間の皺が更に顰める音を聞いた気がしました。

(何も知らねぇシム相手にどうやって理解を得ろっていうんだよ……)

ウェアウルフが生きるための食料は他のシムと変わりません。
ですが満月の夜、月の魔力に耐性のないウェアウルフは理性のない獣に変わってしまいます。そもそも気質が獣に近いので、シムからすれば不気味な存在に見えるでしょう。

対して吸血鬼は一見、他のシムと変わらない外見をしています。
ですが、彼らは常に血に飢えています。昨今はブラッドパックと言う便利な道具が生まれた様ですが、古い魔法使いの知る吸血鬼は生き血を吸う怪物です。

難題とはいえ目標ができた以上、一つ所に止まって悩むのはミストの気に沿いません。
明日、試しにムーンウッドミルを離れてみることにしました。

一匹狼、人里で火事に遭う

火事

近くで火事が発生しました!
手が付けられなくなる前に消火すべきです!

ミストがウェアウルフの良さを売り込む台詞を悩む暇もなく、立ち寄った家で火事が起きました。

『嘘だろ?!俺が不運でも持ち込んだってのか?んな能力、俺らにはないぞ!!』

見知らぬシムの盾にされていることよりも、己の巡り合わせの悪さをミストは嘆きました。
氷を呼ぼうにも月の魔法で獣に変わった体は、原始流魔法を使えません。

『いーいモンがあんじゃねぇか!文明万歳!!こりゃ魔法なんか要らねぇな!』

住民が逃げた家で一人、ミストは消火活動を行いました。
少なくとも今この時、この家に住む住人にとって彼は命知らずの英雄でしょう。
彼がウェアウルフであることを告げても、誰も嫌な顔をしませんでした。

元々社交的で冒険好きなミストは着実に友人と理解者を増やしていきました。
いつ友人が遊びに来ても歓迎できるよう、木造の掘っ立て小屋も現代風の家にリフォームしました。

リフォーム後、初めての来客はファーザーウィンターでした。
幾つ齢を重ねようとプレゼントの予感に胸が躍らないシムはいないでしょう。

『手の込んだ嫌がらせがしてぇだけなら、よそ行ってくれよ……それとも、でっけえ引っ搔き傷をプレゼントされてぇのか?』

悲しみと偽りのプレゼントを受け取り、ミストは二度とファーザーウィンターを歓迎しない。そう決心しました。

失った道の先

『クリストファー、あんたに勝てなきゃ師匠に……グレッグにも勝てない。アルファの座を賭け、俺と戦ってくれ!』

『私を本気にさせようということか。良いだろう。かかってこい!』

クリストファーとは何度か争っていました。
ですが、一方的に敵意を見せるミストに対しクリストファーは「本気を出していない」そう感じていました。

『ハァハァ……おい、クリストファー!もう終わりか!!あんたなら、まだいけるだろう!』

『いたたた……、いや。もうムリだ……私の負けだよ、ミスト。アルファの座を君に譲らせてくれ』

ミストはムーンウッド集合体のアルファの地位を得ました。

正直、ミストは群れのアルファという地位に興味はありません。
守る物があればシムは強くなる。そう思って勝負に挑んだのです。

『俺はムーンウッド集合体を去る。アルファの地位もあんたに返すよ、クリストファー……群れに向いていない、はぐれ狼の俺を迎え入れてくれてありがとう』

『そうか、寂しくなるな。でも、気が向いたらいつでも戻ってくると良いさ。ミスト、君は群れの一員でなくなっても我々共通の友人なんだ』

穏やかな群れの中は、どうしても自分が住んでいた村を思い出させます。
ここには故郷に良く似た懐かしい暖かさと、二度と帰れない現実を突きつけられているような寂しさがありました。

残酷なまでに優しいムーンウッド集合体にミストは別れを告げました。

『行かねぇとな……決着を付けに……』

ミストがグレッグと最後に会ったのは何時だったでしょうか。本人も覚えていません。
ただ、見知らぬシムが恩師の住む小屋のある方角に向かい、そして悲鳴を上げて走り帰ってくる姿は何度も見ました。

『グレッグ師匠、お久しぶりです』

『ダレだ……オレに、近付クんじゃ……ナいッ!』

『貴方に原始流派の指導を受けた、ミスト・レヴィンソンです。お忘れですか?』

返ってきたのは唸り声だけでした。
家名を覚えていた自分に驚きつつ、怒りに飲まれたグレッグの姿に己の未来を重ね、ミストも小さく唸り声を上げました。

『最後の手ほどきをしてくれよ師匠。あんたを倒して俺は更に強くなるっ!!』

ミストは常に強さを求めていました。

強くなければ生き残れません。
彼は吸血鬼達の手で魔法使い達が滅ぼされかけている時代に産まれたのです。

守りたいものがありました。

恋しいシムがいました。

全てを失った彼には、強さを求める以外の道が見えなかったのです。



『勝った!俺はっグレッグに……師匠に勝ったんだ……っ!!』

勝利の遠吠えを上げるかつての弟子に背を向け、グレッグは静かにその場を去って行きました。最後まで、彼は弟子の一人として認識しなかったようです。

そして、高揚感の後には虚しさだけがありました。

「強くなって、その後は?」

答えは出ません。
今からフォーゴッテン・ホロウに殴り込みに行っても、今のストラウド氏は一つの集落を治める地位を持つシムです。

たとえ勝てたとしても「急に館で暴れ出した獣が出た」とウェアウルフの悪名が増えるだけでしょう。

でも、それで良いとすら思いました。
長年の夢を叶えてしまったミストは、急に自分が空っぽになった気がしたのです。

喧嘩で傷だらけの体を引きずり、ミストはフォーゴッテン・ホロウを目指すことにしました。

壊れたコンパスの先にあったもの

『で、わたくしに拾われた……と?』

『そうなる、な』

『馬鹿ですか?考えなしにも程がございますよ?わたくしが見つけたから良いものの、吸血鬼共に見つかったら……ああ、なるほど』

散歩中のミタさんに拾われ、家に放り込まれたミストは目の前の骸骨を信じられないものを見る目で眺めていました。
確かに声はサンダーですが、痩せ過ぎて骨しかありません。

『貴方、吸血鬼の手で死ぬ気でしたね?わたくしの仕事が増えるではないですか。迷惑なので止めて下さいません?』

『うっ、……つーかなんでお前が吸血鬼どもの墓で墓守してんだよ!』

『わたくしのことなど良いでしょう。色々あったのですよ。色々と』

図星を突かれて苦し紛れに疑問を投げると溜息が返されました。確かに色々となければその姿にはならないだろうことはミストにも分かります。

そして断られる覚悟を決めて引っ越してこないかと尋ねると、あっさりと受け入れられました。
色々あるというのはなんだったのでしょう。


『わたくしをあの家に縛っていたのは、わたくしを知る者のいない孤独と恐怖でした。貴方の生存が確認できた以上、悍ましい吸血鬼などに縛られる必要はありません。それだけのことです』

『……そのやたら丁寧な喋り方、おじさんの真似か?お前がその喋り方すると嫌味な感じしかしねぇ……なんつーか時間って残酷だな』

『ハァ……貴方は全く変わりませんねぇ。少しは年相応の喋り方を模索されてはどうです?』

「俺の年相応ってなるとジジイを超えるぞ?!見た目年齢はおっさんなんだ。俺は良いんだよこれで!』

最後に会話してから百年以上の溝があったのが嘘のように会話が弾んでいきます。

サンダーの外見が骸骨であることも、なぜ吸血鬼の墓に住んでいたのかも気にはなりますが、全てどうでも良いと思える程。ミストの胸に暖かな感情が溢れてきました。

『なあ、ムーンウッドミルの丘とか行ったことないだろ?あそこ、空が近くて星が綺麗なんだ。今から見にいこうぜ?』

『ええ、別に構いませんが。貴方はその……月を多く浴びて大丈夫なんですか?』

『俺?どっちかというと外に居た方が安心感がある気質なんだ。部屋の中だとどうも窮屈でな』

ミストは「落ち着きのない動物」気質持ちです。家の中に居ると怒りが溜まっていく、大変極端なアウトドア派ウェアウルフでした。

『今後、日常生活に支障の出る情報は真っ先に話して下さいね?まったく。屋内に止まるのがおつらいのならもっと外に家具をお出しになればよいものを……』

『すまん……ほ、ほら、それより星を見ようぜ!』

家の中に居ると窮屈に感じるのは今までミストの自己責任だけで済みました。
しかし、これからはサンダーに心配をかけない家具配置を考えた方が良いようです。

(同居ってこと……だよな?俺と、サンダーが……我慢できるか?骨だけど、サンダーなんだぞ??骨だから驚きの無臭だけど!!)

『本当に星が近いですねぇ。外界から隔てられているように静かですし、これは良い場所を教えて頂けました』

急に星なんて眺める状況でなくなり、何を指さしているのか自分でも分からなくなったミストの心境など骨と化した親友は気付いていないようです。

『俺から天体観測を提案しておいて悪いんだが、ちょっと良いか?』

『良いところでしたのに。なんです?』

『好きだ。ずっと好きだって、伝えたかった』

『しょ、正気ですか……?!わたくし、今骸骨なんですよ?!しかもヴィンテージものの!!』

『年寄りだっつーんならお互い様だろう。俺たちは世紀の闘いの生き証人なんだしよ』

『そう言うことではありません!!貴方はまだ生殖能力がおありなんでしょう?!このような骸骨に求愛など!結婚は?子作りは?計画建てての告白なのですか?!(結婚について話す)』

『へっ?!け、けけけ……結婚?!』

長いこと友情すら育む余裕のなかったミスト。もちろん他の恋を探そうなんて考える余裕もありませんでした。
何人かのウェアウルフと交流もしていましたが、運命の相手も見つけていない筋金入りの片思いです。

『んなこと考えてねぇよ!!俺はただ、好きなやつに好きだって言いたかっただけ!そもそも……お前の返事聞いてねぇし』

『……なるほど。無計画かつ、無責任な求愛をされる方だったのですね。残念です』

ミストとしては同居しているシムに片想いしていることを伝えるつもりが、満月の夜だったこともあり興奮してファーストキスまでぶっ飛んでしまった。
それだけでした。

『マジで嫌味なヤツになったな。なんだよ。喧嘩売ってんのかよ……』

『ただ事実をお伝えしただけですが?このスケルトン化は治せますし、わたくしは一度も貴方の想いを否定しておりませんのに。酷いお方だと思いましてね』

『わたしだって……貴方の。ミストの唇の感触を、知りたかったんですよ……!貴方はいつも急ぎ過ぎなんですよ!この短気!!早漏シム!!』

『おい途中まで良い雰囲気だったろ?!途中から言いがかりだぞ!この陰険骸骨野郎!!!』

何度キスしてもファーストキスだけは一度きり。

大事な親友との最初で最後の一回に、感覚も温度も感じられなかったと憤った瞬間、サンダーは自分のミストへの想いに気付き……八つ当たりをしてしまいました。

百年以上寝かされた恋がようやく、日の目を浴びだしたようです。

続きます。
前回、コメントと絵文字ありがとうございました!まとめてお返事しますね!

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